野球肘(上腕骨内側上顆炎)
野球の投球で動作で、投げ過ぎや乱れたフォームでの投球動作で、肘の内側に負担がかかり痛みが生じます。特に成長期(小学高学年〜高校生)に多く見れます。
成長期は骨が完全に成長していません。成長期の骨では、骨と骨の間に軟骨があります。(大人になるとこの軟骨は骨になり、一つの骨となります)これを「骨端成長軟骨」と呼びます。成長期はこの骨端線の軟骨からどんどん骨が作られて骨が成長します。レントゲンで見てみると骨と骨の間に薄く白い隙間として確認する事ができます。骨が十分の完成していないので、成長期の骨は弱くなっています。簡単にいえば、固い骨をやわらかい軟骨が繋いでいます。スポーツで圧迫力が加わったり、引っ張る力が加わると軟骨の部分が傷ついてしまいます。
投球動作時は肘の曲げ伸ばしや、捻り、圧迫力が骨端成長軟骨へ大きな負荷がかかり、骨が引き剥がされる事になります。初めは違和感を感じる程度ですが、そのまま続けているとやがて肘の投げ伸ばしが困難になり、ボールが投げられなくなります。大きな原因として「投げ過ぎ」が挙げられます。例えば「1日70球以上投げる」「週に300球以上ボールを投げる」全日本軟式野球連盟のガイドラインにルールが記載されています。
野球肘はピッチャーだけに限られた症状ではありません。キャッチャーはピッチャーの球数分返球をしなければなりません。キャッチャーは座って返球をするので、上半身のみでボールを投げるため肘への負担が大きくなります。野手でもゴロ捕球からの送球で無理な体勢からの送球、体勢によっては肘を下げて投げることもある為、痛める可能性は大いにあります。成長期は骨の発達に加えて、投球動作時にかかる肘への負担に耐えられる筋力が十分に備わっていない時期でもあります。投球時は肘の曲げ伸ばしや、肩関節からの捻りが加わります。また上半身の捻り、下半身からの体重移動を最後は全て肘で受けることになります。投げる度に負担がかかってしまうので、球数を制限すること、正しいフォームで投げる事がとても重要となります。
学童野球の練習で正しい投げ方や体の使い方を身に付けておく事も野球肘への予防へと大きく繋がります。
<症状>
以下の2種類が存在します。
①肘の内側に発生する内側側副靭帯損傷(内側型野球肘)
②肘の外側に発生する離脱性骨軟骨炎(外側型野球肘)
①内側型が圧倒的に多く、小学生によく見られます。このような症状が見られます。
・投球動作時に痛みが出る(キャッチボール時も含む)
・ボールを握るだけで痛い
・安静時にズキズキするような痛みがある
・肘の曲げ伸ばしがしにくい
・指先に力が入らない
予防をするためには「体の状態を確認し、痛めるリスクがあるかを見極める」事です。施術を受ける方のほとんどがすでに痛みが出ている状態で、痛める前に防ぐ事が重要な疾患です。大きく分けると「体の柔軟性・筋力・動き方」「練習時間・球数・チーム環境」となります。野球肘という言葉があるだけに、痛みの原因が肘にあるかと思いがちですが、体の様々な部位に問題があるから肘への負荷が大きくなり、痛めてしまうケースがほとんどです。
手首、肘、肩、体幹、股関節、膝、足首の柔軟性を高めていく事、下半身や肩関節の可動域が悪い為に肘への負荷を大きくしている事が非常に多く見られます。いわゆる「手投げ」です。
また近年では、スマートフォンやゲームの普及などにより姿勢が悪い子供が増加しています。猫背や骨盤後傾位となると投球動作にも影響を及ぼします。日頃の姿勢も痛みを予防するためには大切です。
<効果的なストレッチ>
・肩甲骨周りのストレッチ
・股関節の股割りや、開脚
・長座体前屈
<効果的な筋トレ>
・アウターの筋力ではなく、関節を支えているインナーマッスルのトレーニングをお勧めします。ゴムチューブなどを使用して行うと簡単に行う事ができます。
①押して痛くないかどうか
・肘の内側、外側、後ろ側を自分で押してみる。(痛みがあれば炎症または筋肉の過度な緊張が考えられる)
②両方の肘が同じように曲げ伸ばしできるか。(動きが悪ければリスクは高い)
③聞き手の小指の筋肉を押して痛いかどうか。(痛みがあれば筋疲労が蓄積している)
主な目的は「投球動作の負担を軽減する」事ですが、同時に「痛みが出ないようにする予防」と「痛みを悪化させないため」の2つの目的もあります。投球動作時に肘への負担を逃がす構造になっているものが多くあります。
注意点は、装着方法やタイミングを間違うと十分な効果が発揮されません。「キツい」「緩い」「短い」などサイズが合っていないサポーターを使用すると、過度に筋肉を圧迫し血液の流れを悪くしたり、緩いとサポーターの意味がなくなります。家族や友達から譲り受けたものではなく、自分の体に合ったサポーターを付けることが大切です。またサポーター以外でもテーピングも十分な効果が期待できます。テーピングのメリットとしてサポーターよりもピンポイントで圧迫できたり、強さや長さも調節できるので、サポートしたい部位が明確になっている場合はお勧めです。
湿布の効果として、「痛みを抑える(消炎鎮痛剤)」があります。患部に対して貼る事で痛み自体は抑えることが期待できます。しかし湿布を貼っておけばいいという考えは患部の炎症を更に強くする恐れがありますので、十分に注意して使用してください。野球肘の痛みは「炎症や熱感」による痛みをです。完全に痛みを取り除くためにはアイシング(冷やす)が最適です。順番として患部のアイシングをしてから湿布を貼る事が望ましいです。すぐにアイシングができなければとりあえず湿布を貼り、その後アイシングをする事が良いでしょう。
野球肘の場合は、まず痛みが出ないように予防的観点から練習後は必ず肘をアイシングする事をお勧めします。アイシングについて現在では様々な意見がありますが、筋肉や関節を休ませるという目的で5〜10分程行う事をお勧めします。それ以上冷やしてしまうと、筋肉の回復を遅延させたり、血流が悪くなり、筋肉が硬くなってしまう恐れがあります。アイシングは用意できれば「氷嚢」が好ましいです。よく保冷剤を使用する方もいますが、保冷剤はなかなか溶けず、患部に当たりにくい為、お勧めはできません。アイシング後は、栄養価の高い食事、入浴でのリラックス、睡眠を十分に取ることで、回復を促すことができます。
野球での肘の痛みはピッチャーだけが気をつければ良いのではなく、野手でも気をつけなければなりません。良いフォームであっても投げ過ぎてしまえば痛みは出てしまいます。
・腕の力だけで投げる
速い球を投げたいと思うと自然と腕に力が入ってしまいます。速い球を投げる為には下半身との連動が大切です。いかに下半身のパワーを上半身に伝えるかです。下半身がうまく使えることができれば肘や肩への負担は軽減し、良いボールも投げられるようになります。体重移動がポイントです。
・常に指先に力が入っている、ボールの回転軸が斜めになっている
指先に力が入り過ぎていると前腕屈筋群に過度なストレスがかかり、野球肘が発症しやすくなります。その状態で投球動作をするととてもリスクが高まります。またボールの回転にも目を向けて下さい。理想は綺麗な縦回転ですが、回転軸が斜めになっていたり、横になっていると肘の出方や手首の向きが悪いことが考えられます。
・投球時に手と体の位置が離れ過ぎている
手と体の距離が離れていると肘への負荷を更に大きくします。同時に肘や肩、体全体の使い方が悪くなり、様々な故障のリスクが高まります。
自然治癒は難しい症状です。痛み自体は安静にしておけば軽減または消失する事は考えられますが、再び野球の練習を再開すると痛みが出ることが考えられます。 また野球肘の原因は肘だけにある訳ではなく、体全体の問題ですので、施術を受けて治し、再発予防をお勧めします。
①押して痛くないかどうか
・肘の内側、外側、後ろ側を自分で押してみる。(痛みがあれば炎症または筋肉の過度な緊張が考えられます)
②両方の肘が同じように曲げ伸ばしできるか。(動きが悪ければリスクは高い)
③聞き手の小指の筋肉を押して痛いかどうか。(痛みがあれば筋疲労が蓄積している)
肘はボールを投げるだけではなく、バッティングの際にも負荷がかかっている。バッティング時に痛みが誘発される場合は肘に負荷がかかる練習を全て中止することが望ましいです。ストレッチやトレーニング、ゴロ捕球などといったメニューを行うこととなります。
内側上顆炎でのオペはごくわずかではありますが、外即型の「離断性骨軟骨炎」の場合はオペとなるケースがしばし見られます。肘への繰り返しの負荷により、骨軟骨が剥がれてしまいます。炎症や腫脹のみであれば非観血療法で完治できますが、骨軟骨が剥がれるとオペの対象となります。多くは肘や膝から骨軟骨を採取し、移植をします。入院はさほど長くならずに1〜2日で退院できますが、その後のリハビリに時間を要します。およそ2ヶ月後からシャドーピッチング、3ヶ月後にはボールを投げられるようになります。リハビリを重ねて術後5〜6ヶ月ほどで完全復帰可能となります。実質半年以上、ボールが満足に投げられない状態が続くことになるので、やはり早期発見、早期施術が重要となります。
当院では「超音波診断装置」(エコー)を導入しています。エコーを用いて野球肘診断をしています。エコーでは現在の骨や軟骨の状態、靭帯の損傷度合いを確認することができ、野球肘の早期発見が可能です。痛みが出る前に患部の状態を知れることで、予後不良を防ぎます。また、野球肘の原因となる、体のバランスや、筋肉の柔軟性、関節可動域向上の施術も行っています。痛みが出る前の予防、万が一痛みが出てしまった時も完治から再発予防まで可能な施術を行っています。