テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
テニスでは手首を反らす、腕を捻る動作が多くあります。その動作を繰り返し行う事で、肘の外側に負担がかかり痛みが生じます。痛みを無理する事で、重症化しテニスはおろか、日常生活にも支障が出てしまいます。また、手は日常生活動作でも動きが多く、安静を保つ事が難しい事から一度負傷すると安静保持が難しく、なかなか治りにくい症状です。
主に関連する筋肉は前腕伸筋群です。これは手の甲から肘の外側に繋がっている筋肉の集まりです。テニスではこの筋肉にかかる負担が大きく、ラケットでのボールインパクト時の衝撃が手首に伝わり、肘の筋腱付着部まで影響します。またスイートスポットにボールが命中しにくい初・中級者に起こりやすく、繰り返しの負荷で肘の外側に付着する筋肉が炎症し痛みが生じます。特にバックハンドでの衝撃が大きく、両手打ちよりも片手打ちの方が負担は増強します。また日常生活内でも負担が大きく、鍋を振る、重い物を持ち上げる動作が続くと肘の外側にストレスがかかり、痛めるケースもあります。
つまり、日常生活で負担が蓄積した状態でテニスをする事は大きなリスクとなります。またラケットの握り方、振り方、体の使い方が正しくない、ラケットの相性、ガットの硬さ、重さ、手入れ不足による衝撃吸収の悪さも影響しますので、スクールのコーチや専門店の店員さんと相談し、自分に合ったラケットを選ぶ事も大切な要素です。
テニス時にラケットを振り、ボールを打つ動作で痛みが出る事はもちろんですが、日常生活動作でも大きな支障をきたします。
<日常生活での症状>
・タオルを絞る
・洗濯物を取り出す
・ドアノブを回す
・ペットボトルの蓋を開ける
・鍋を持ち上げる
などの手首を上に上げたり、捻ったりする動きの際に痛みが生じます。痛みが出る部分は多くは肘の外側の骨付近から手の甲にかけて痛みが出現します。初めは動きの中で痛みが生じますが、重症化すると安静時でも痛みが出る場合もあります。
<トムゼンテスト>
痛みが出る肘を伸ばした状態にして、片方の手でその手首を曲げるように掴みます。痛みを感じる方の手首を曲げようとする力に抵抗して手首を上に上げて下さい。これで肘に痛みが誘発されればテニス肘の可能性は高まります。
<チェアテスト>
自宅にある一人で持ち上げられる軽めの椅子を用意します。痛みがある側の肘を伸ばした状態で椅子を持ち上げます。この時痛みが誘発されればテニス肘の可能性があります。※椅子がない場合はある程度の重さの物で行って下さい。
<中指テスト>
痛みがある側の中指を伸ばしてもう片方の手で爪側から下に向かって中指を押さえつけます。中指はそれに逆らうようにして上に伸ばします。その時に痛み誘発されればテニス肘の可能性があります。3つのセルフチェックのうち1つでも痛みを感じるのであればテニス肘を疑い早期に施術を始めましょう。
ストレッチはできる限り毎日行う事をお勧めします。特にテニス前後や最中は積極的に行うようにして下さい。しかし、ストレッチの強度が強過ぎたり、やり過ぎたりすると逆効果となる恐れもありますので、注意しながら行いましょう。強度の目安としては10秒経つ時に患部が伸びるようにしましょう。初めは優しく、徐々に強めていきます。
<やり方>
① ストレッチする側の腕を前に出します
② 親指を下にして、肘をしっかり伸ばす
③ 手首を曲げながら、反対の手でストレッチ側の人差し指と中指を引っ張る
④ 10秒程度、持続的にストレッチする
⑤ 腕を回して、肘の内側の筋肉もストレッチをしましょう
<サポーターについて(エルボーバンド)>
大切な事はどこにサポーター(バンド)を装着するかです。よく見られるのが痛む部分を抑えようとして、肘の外側にある骨付近に(上腕骨外側上顆)当てしまう事です。サポーターの目的としては痛みの原因となっている筋肉の動きを抑制し、肘への負担を軽減する事です。ですので、骨を押さえ付けてしまっては本来の効果が得られません。そのため、肘の外側の骨(上腕骨外側上顆)より指2本分ぐらい下の筋肉に巻くのが効果的です。サポーターをしているから普段通りテニスをして良いとは限りません。基本的には安静が第一ですが、どうしても大会に出なくてはいけない、仕事で使わなければいけないという方にはお勧めします。
<テーピングについて>
テーピングは関節の可動域を制限し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。関節を動かす度に痛みが出る際には有効なアイテムです。ですが、自分自身で巻くことはなかなか難しいものです。テニス肘で有効的なテーピングの種類は「キネシオテープ」「 KTテープ」の2種類です。キネシオテープは皆さんご存知の通り肌色の収縮性があるテープです。KTテープは近年スポーツ界の中で流行っているテーピングです。固めるテーピングではなく筋肉や関節をサポート事が目的です。 貼った部位の筋肉内の温度上昇やパワーアップ、疲労物質の軽減などが実証されているもので、パフォーマンスアップにも効果を発揮します。こういったアイテムをうまく活用する事も大切ですね。
※貼り方の例
・サポートしたい方の肘を伸ばし、手首を90°屈曲させます。
・親指と手首の間に貼り付けてそのまま肘の外側を目掛けて引っ張ります。(キネシオの場合は長さを合わせてカットして下さい。伸びる事を考えて少し短めにカットしましょう)
・7〜8割の力で引っ張って下さい。肘の貼り付ける時は端を指2本分くらい余すと動いている時でも剥がれにくくなります。
・もう一本は痛みがある肘の外側の骨から指2本分手首側の筋肉が盛り上がっている部分を上から抑えるけながら横にテープを1周させます。
・腕が太い方はKTテープでは1周しない場合もありますが、問題ありません。
テニス肘のケア方法として「ストレッチ」「アイシング」「サポーター」があります。
まずは「ストレッチ」についてです。有効なストレッチをご紹介します。
上腕骨外側上顆には多くの筋肉が付着します。これらの筋肉をしっかりとストレッチをしていきましょう。
・尺側手根伸筋 (手を小指側、手の甲側に動かす筋)
・総指伸筋 (人差指~小指を反らせる筋)
・小指伸筋 (小指を反らせ筋)
・短橈側手根伸筋 (手を親指側、手の甲側に動かす筋)
・長橈側手根伸筋 (手を親指側、手の甲側に動かす筋)
・回外筋 (腕を親指側に回す筋)
(1)痛めている腕の肘を伸ばします。その時手の甲を上に向けて下さい。片方の手で第2・3指を持ちながら肘の方向へ引っ張ります。そうすると前腕の筋肉が伸びてきます。これを10秒3セット行って下さい。(引っ張る強さは7〜8割の力で構いません)テニス前後や最中、起床時や就寝時とこまめに行う事が効果的です。
(2) 同じような形で親指を持ちながら肘の歩行へ引っ張りましょう。その時手首を外側に捻りながらストレッチをすると外側の筋肉まで伸ばされます。
(3) 反対側の筋肉のストレッチも行いましょう。前腕内側の筋肉にも負荷がかかっているため、しっかりとケアをする必要があります。内側の筋肉は手首を曲げる作用があり、手首や肘関節を滑らかに動かすためには重要です。前腕の内側を上に向けて、肘を伸ばします。手のひら側を上にして片方の手で指先を持ち肘の方向へ引っ張ります。こちらも同様に10秒3セット行いましょう。
(4) 最後にストレッチではないのですが、自宅でできるセルフケアです。痛めている肘の外側に硬く飛び出ている骨があります。これを上腕骨外側上顆炎と言います。この部分に炎症が起こります。そこから2〜3指本下の筋肉が盛り上がっている筋肉を自分の指でツボ押しします。軽く押しながら小さく円を描くように押して下さい。強く押し過ぎると筋肉を痛めてしまう可能性がありますので、「少し痛む程度」が強さの目安です。
次に「アイシング(湿布)」についてです。テニス肘の痛みは筋腱付着部の炎症による痛みが主です。
炎症を抑えるためには「アイシング」が有効ですが、長時間アイシングをしたから炎症が引き、筋肉の疲労が回復するわけではありません。アイシングは「時間」が大切です。氷嚢(氷)で患部を運動後なるべく早めに5〜10分程度冷やして下さい。少しヒリヒリするくらいまで冷やしましょう。アイシングが終わったら次はストレッチです。アイシング後そのまま放置しておくと血流が悪くなり、疲労物質が流れていかずに、患部に滞在します。結果筋肉は硬くなってしまいます。アイシンング後にストレッチをする事で損傷した筋肉に血液が流れて、損傷部分を修復する働きを促進します。湿布は「経皮鎮痛炎症剤」と呼ばれ、簡単に言えば痛み止めの効果があります。飲むか皮膚に貼るかの違いなのです。優先度としてはアイシングやストレッチよりは落ちますが、痛みが強い時は就寝前、患部に貼り付けたりすると痛みが軽減する効果があります。サポーターに関しては上記の<サポーターについて>をご参照ください。
有効かそうでないかでいうと「有効」です。ですが、注射を打つ程までに症状が悪化してしまうことは防ぎたいものです。注射が必要な場合とは
・安静にしていても「ズキズキ」と痛みがある
・痛みが強く寝る事ができない
・軽いものでも持ち上げる事が困難、できない
など日常生活に影響が出ている事に加えて、痛みに我慢ができないほど強くなってしまった場合の「対処療法」として注射があります。
注射を打つと痛みが劇的に軽減し、激しい痛みから開放されますが、リスクを伴います。強い痛みを抑えるために、患部に直接薬を投与するため体への負担があります。多くは「ステロイド」が投与されますが、筋肉、皮下組織が萎縮してしまうという副作用があるとも言われています。痛みが強いからと言って直ぐに注射を打つのではなく、まずはストレッチやアイシング、患部の安静などで様子を見ながらタイミングを考える事をお勧めします。
損傷程度によりますが、早いと軽度な症状では1ヶ月以内に完治する症状もあります。ですが、重症となると3ヶ月それ以上の期間を要する場合もあります。痛みに関しては「安静」にする事ができればそこまで長引く事がありませんが、手首や肘を日常的に動きが多い部位です。そのため安静保持が非常に難しくなります。まずは安静にして患部の炎症、痛みが引く事を優先します。施術やセルフケアを継続していくと徐々に痛みは軽減し、日常生活に支障がなくなります。テニス肘の方の完治(ゴール)は「痛みがなくテニスをする事」ですので、ややハードルが高くなります。症状が軽減したらリハビリ期間に入ります。復帰に向けての準備です。まずはラケットを振って素振りをしたり、軽くボールを打ったりしながら肘の状態を確認していきます。それもクリアできれば次は実際に来たボールを打ち返す、サーブをする、バックハンドで痛みが出るかの確認をします。そのような事を繰り返していきながら、完治(復帰)を目指していきます。
当院ではまず症状を確認するために「徒手検査法」と「超音波診断措置(エコー)」で患部を見ていきます。徒手検査法では痛めている筋肉の状態、力の入り方などを確認していきます。エコーでは患部の筋肉の状態や炎症度合いが確認でき、異常な血管がないか、筋肉や腱の連続性が保たれているかを確認する事ができます。状態が確認できたら、施術をしていきます。テニスの動きは手首や肘だけを使っているわけではなく、体全身の連動でラケットを振ったり、体を動かしたりするので、体全身を診ていきます。骨格を整えて関節の可動域を高め、筋肉がストレスなく動けるように関節を正しい位置に戻す「骨盤・背骨矯正」も行っています。また肩関節や下半身の柔軟性を高めていく事で肘や手首の負担も軽減されてきます。患部に対しては肘の柔軟性を固めていく事と、炎症部分には超音波を使い炎症を抑えていきます。少しずつテニスが再開できれば、練習や試合前にテーピングを巻き、前後のケアもしています。
内側上顆炎でのオペはごくわずかではありますが、外即型の「離断性骨軟骨炎」の場合はオペとなるケースがしばし見られます。肘への繰り返しの負荷により、骨軟骨が剥がれてしまいます。炎症や腫脹のみであれば非観血療法で完治できますが、骨軟骨が剥がれるとオペの対象となります。多くは肘や膝から骨軟骨を採取し、移植をします。入院はさほど長くならずに1〜2日で退院できますが、その後のリハビリに時間を要します。およそ2ヶ月後からシャドーピッチング、3ヶ月後にはボールを投げられるようになります。リハビリを重ねて術後5〜6ヶ月ほどで完全復帰可能となります。実質半年以上、ボールが満足に投げられない状態が続くことになるので、やはり早期発見、早期施術が重要となります。
テニス肘は日常生活の負担が大きな原因となる為、日頃から定期的なケアが必要です。痛みが取れたからといって、どんどんテニスをしてしまうと再び痛みに悩ませれる厄介な症状ですので、テニスをしている方は十分に注意して下さい。